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甲状腺機能亢進症の治療が始まると、「隠れていた腎臓病」が見えてきたり、心臓や血圧に変化が現れることがあります。このページでは、治療中に気をつけたい3つの合併症(腎臓・心臓・血圧)と、ホルモンを下げすぎることで起こるリスクについて解説します。
こんな飼い主さんへ
- —治療を始めたら、腎臓の数値が悪化してしまった方
- —これから治療を始めるにあたり、気をつけるべきリスクを知っておきたい方
治療を始めると、体に起こる3つの変化
甲状腺ホルモンは、腎臓・心臓・血管など全身の働きに関わっています。そのため、治療でホルモンの数値が落ち着いてくると、それまで隠れていた変化が見えてくることがあります。ここでは、治療中に気をつけたい「腎臓」「心臓」「血圧」の3つを順番に見ていきましょう。
腎臓:隠れていた腎臓病が見えてくる「マスキング」
腎臓の状態は、血液検査の「クレアチニン」という数値を目安にするのが一般的です。ただし甲状腺ホルモンが過剰な状態では、腎臓を流れる血液量が増えて腎臓の働きが一時的に「底上げ」される上に、筋肉量の減少でクレアチニンの数値そのものも低く出やすくなります。そのため、実際には腎臓病があっても、検査では見えにくくなる(マスクされる)ことがあります。
治療でホルモンが正常に戻ると、この底上げが解消されるため、約12%の猫で治療後に腎臓の数値が悪化し、隠れていた腎臓病が姿を現します。
では、こうして腎臓病が明らかになった猫は、その後どうなるのでしょうか。放射性ヨウ素で根本治療した1,047匹を対象にした調査で、その後の生存期間を比べたデータがあります。
生存期間中央値とは、100匹のうち、ちょうど真ん中の子が過ごせた期間を指します。治療前に明らかな腎臓病があった猫は含まれていません。
なお、腎臓病が心配だからといって治療を控えることは推奨されていません。未治療のまま甲状腺ホルモンが高い状態が続くと、心臓など全身への負担も続いてしまうためです。
ホルモンの下げすぎにも注意
甲状腺の治療でもっとも注意したいのが、ホルモンを「下げすぎてしまうこと」(医原性甲状腺機能低下症)です。ホルモンが下がりすぎると腎臓への血流も落ちすぎてしまい、かえって腎臓に負担をかけ、生存期間が大幅に短くなることが報告されています。
そのため治療では、甲状腺ホルモン(T4)を基準値の中でも低めの範囲(例:基準値1.0〜4.0 µg/dLなら1.0〜2.5 µg/dL程度)に維持することが目標です。また、T4だけでは「下げすぎ」の兆候を見逃すことがあるため、下がりすぎを先に知らせてくれる「TSH」という数値も一緒に確認します。
猫の慢性腎臓病(CKD)クレアチニンなどの数値が気になったら心臓:負担がかかっていた心臓は、治療で元に戻ることが多い
腎臓だけでなく、心臓も甲状腺ホルモンの影響を受けます。ホルモンが過剰になると代謝が上がり、心拍数が常に速くなるため、その負担に耐えようと猫の心臓の筋肉が徐々に分厚くなっていきます(左室求心性肥大)。診察で心雑音や頻脈を指摘されることもあります。
この心臓の変化は、猫でよく見られる心筋症(心臓の筋肉が分厚くなる病気)とエコー検査でよく似た所見を示します。しかし大きな違いは、甲状腺の治療でホルモンが正常化すれば、厚くなった心臓の筋肉や速い心拍数も元に戻ることが多いという点です。治療開始から数ヶ月ほどで、エコー検査の異常や心雑音が消えるケースも珍しくありません。
血圧:高血圧と「白衣高血圧」
甲状腺機能亢進症の猫は血圧が高くなりやすく、治療前の猫の約27%が高血圧(収縮期血圧160 mmHg以上)を示したというデータがあります。ただし、この病気の猫は興奮しやすいため、病院で緊張して血圧が上がる「白衣高血圧」の割合も多いとされています。
緊張が原因の場合は、甲状腺の治療が成功して状態が落ち着けば、血圧も正常に戻ることがあります。一方、お薬による治療が中心の日本では、治療後に血圧が自然に下がるとは限らず、逆に隠れていた腎臓病などの影響で、治療後にあらためて高血圧が現れることもあります。そのため、治療の前だけでなく治療後も定期的な血圧チェックが欠かせません。
高血圧が続く場合は、アムロジピン(商品名:アモディップ錠 など)やテルミサルタン(商品名:セミントラ)といった血圧を下げるお薬で対応します。
猫の高血圧症「血圧が高い」と言われたら?体への影響と治療の見通しまとめ:明日の診察室で聞きたいこと
このページの振り返り
- —治療が成功すると、隠れていた腎臓病が姿を現すことがある(マスキング)。
- —腎臓を守るには、甲状腺ホルモンを下げすぎない(基準値の下半分が目安)ことが重要。
- —心臓の負担は治療で元に戻ることが多いが、血圧は治療後も定期的なチェックが必要。
診察室で、こう聞いてみる
「治療中に腎臓の数値が悪化した場合、今のお薬の量は適切ですか?」
「甲状腺ホルモンが「下がりすぎていないか」を確認する検査(TSH)は受けられますか?」
「心雑音や高血圧は、甲状腺の治療だけで落ち着きそうですか?」
表示される数値は統計的な参考値であり、個別の診断を確定させるものではありません。
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甲状腺機能亢進症の猫は興奮しやすく、病院での緊張で血圧が上がる「白衣高血圧」の割合も多いとされています。住み慣れた自宅で測って診察のときに獣医さんに見せるのがおすすめです。数値の自己判断はせず、お薬の量の調整は必ず獣医師の指示に従ってください。
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参考文献
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※ 表示される数値は統計的な参考値であり、個別の診断を確定させるものではありません。 本ページの情報は獣医師が監修していますが、治療方針は必ずかかりつけの獣医師とご相談ください。